正しいギタ−選択のために
良いギタ−とは
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良いギタ−とは簡潔に良く鳴るギタ−と要約出来るでしょう。鳴らないギタ−では自分の思った様に音が出てくれないのでやる気を削がれ、ましてや音楽表現どころではありません。逆に、良く鳴るギタ−は自ずと弾き手をその気にさせてくれ上達を促します。従って、最初から良い楽器を持った方が上達すると言うのは楽器商のセ−ルス文句である反面真理を突いています。やはりある程度以上の楽器は上達の必要条件です。ギタ−奏者は他のギタ−奏者にも、そして、良いギタ−にも刺激を受けて上達して行くと言うのは私自身の経験でもあります。 そして、誰でも同じ代金を払うならより良いギタ−を求めたいと思うのは当然であり、一般的にはより高価であるほどより良いギタ−だと言って宜しいでしょう。そのギタ−料金の相違と是非は別項で述べるとして、ここでは量産から高級手工品に至る総てのギタ−の規範たるべき、この掴み所のない良いギタ−、特に、良いスペインギタ−の観点からレオ−ナ流定義を試みてみましょう。 |
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@ 音量 良く鳴るギタ−なら音が大きいはずだと言う単純な答えが返って来そうですが、問題はその大きな音がどの様に弾けば出るギタ−かと言うことなのです。軽自動車で精一杯アクセルを踏み込んだ時速100kmとベンツで軽く流す時速100kmの違いとでも言えるでしょう。確かに両者共同じ速度には違いないのですが・・・。 良いギタ−の第一条件は軽いタッチで音が気持ち良く出るギタ−と言えるでしょう。逆に音が今一抜けないギタ−はやはり今一です。バッティングは手答え。りんごは歯答え。ギタ−も弾き答えがなければ味わえません。打てば響く太鼓の如く、まずはギタ−を軽く爪弾いただけでスキッと音が抜けるか、少々力を込めなければ音が出ないかが判断基準です。同時に、少々力を込めなければ音が出ないギタ−には下のAで述べる音質がなく、軽いタッチで音が自ずと出てくれるギタ−はAの(A)〜(D)各項目もそれに応じて伴うこともまた事実です。ただし、最初は鳴らなくとも、弾き込むと明らかに音量音質を増すギタ−もありますので、ギタ−の選択は当初の印象だけでは一概に判断出来ない面も大いにあります。 レオ−ナからお届けするスペイン製量産ギタ−(料金一覧の20万円以下のギタ−)は私が製作所に指定する音量増幅内部構造です。私の発案ではありませんが、何人もの有名な製作家が一昔前から実践している構造です(もちろんこの様式を用いない名工もたくさんいます)。ギタ−は生物ですから一概に言えませんが、この構造にすれば平均して音量が増すことは統計上明らかです。 さて、初心者に限らず上級者まで、ギタ−の選択においてこの音量だけで判断している人、つまり、音が大きい方が良いギタ−であり、高価なギタ−ほど音が大きいはずだと思い込んでいる人が結構いるのではないでしょうか。しかし、日本語で言う量より質は人生の総ての面において、そして、音量より音質はギタ−のみならず総ての楽器に共通して言えることです。次のA音質の項目こそ最も重要なギタ−選択基準だと思って下さい。少々長いですが、私も力を込めた項目ですので、是非とも克目してお読み下さい。
A 音質 音量だけでなく、更にそれが味のある音である時、音質のあるギタ−だと言えます。例え量は同じでも歯答えのある麺とない麺、スペインではこくのあるオ−リブ油とないオリ−ブ油とも比喩出来ます。こくがなかなかことばにならない様に味のある音がどう言う音かも説明し難いのですが、単に音が出ている以上の音とでも言いましょうか。これではますます分かりませんね。結局何本も弾き比べて耳を肥す以外にないのですが、それは色々食べ比べて舌を肥やすことにも似ています。 私が幼い頃からインスタントラ−メンはありました。今ではこれがインスタントかと思う様な美味しい製品もありますが、翌日手打ちラ−メンを食べれば違いは歴然です。確かに見た目には両者共どんぶり一杯の同じ量のラ−メンで歴然とした違いはありませんが、そこに至る労力、過程、風味、歯応え、味、料金の違いは歴然です。わざわざラ−メン屋まで出向いて手打ちラ−メンを食べる人は量ではなく、この歴然とした質の違いにインスタントラ−メンより高いお金を払うと言えます。この歴然とした違いが良く分かっている人は手打ちラ−メンの方が歴然と高くても文句は言いません。見た目の量ではなく、味覚に訴える味が歴然と違うからです。同様にギタ−奏者もギタ−の音量の大小ではなく、音の味覚に訴える味とこくのある音質のギタ−により判断基準を置くべきです。 とは言え、これでもまだまだ抽象的表現には違いありません。更にいくつかの観点からこの音質のあるギタ−とは具体的にいかなるギタ−かについて分かり易く見てみましょう。 (A)
音の分離と遠達力 ギタ−は一度に六つの音まで同時に出る訳ですが、いくら音量があっても、各音が分離せず団子状態なら、今一つ釈然としない響き方をします。私は数十年前の安物のスペイン製くるみギタ−を持っています。当時は合板がなかった時代でしたので、安物とは言え単板ギタ−ですが、徹底的に経費節減したものと見え、何と内部には力木さえありません。おそらく経過年数のせいでしょう。このギタ−が、手元で弾いた感じ、音は非常に小さいのですが、他の手工ギタ−を差し置き、何と聞く人総てにこのギタ−が一番良いと言われます。具体的には一音一音がはっきり分離しており、遠くまできれいに聞こえると言うのです。また、私が以前こちらでR.ブ−シェのギタ−を弾く機会がありました。正直、手元での響きはこれが銘器かなあと言う第一印象だったのですが、プロがステ−ジで弾くと全くもって心に沁みる様な音色でした。 音が分離しているが故に、軽いタッチで音に遠達力のあるギタ−こそ良いギタ−だと言えます。これを裏打ちする、以前読んだある歌舞伎の師匠の逸話をご紹介します。マイクも何もない歌舞伎だからこそ、舞台の一番奥まで声を届かせるには声量だと思っていたその師匠は、ある日ある女性ピアニストについて『彼女の音は一音一音はっきり分離してきれいだ』とのコメントを聞き、声量ではなく、母音をはっきり発音してやれば、声量はなくとも声は舞台の奥まで届くことに目が開かれたそうです。良いギタ−も同じです。各音が分離していれば遠達力に優れ、手元の音量はそれほどではなくとも大きく聞こえるものです。また、その様なギタ−の音色は必ず味とこくと、そして、次に述べる個性があるものです。世の多くのギタリスト達の一番の判断基準もここにあります。 (B)
個性ある音色 これもまた掴み所のない表現ですが、スペイン人ギタ−製作家やギタリスト達はギタ−を評価する際、『個性ある音色だからこれは良いギタ−だ』とか、『このギタ−は音に個性がない』と良く言います。例えば、上の例で言えば、インスタントラ−メンも手打ちラ−メンも、何を食べても皆同じと言う人は味覚がない、つまり、手打ちラ−メンの良さ、その個性が分からない味覚音痴だと言えます。或いは、ラ−メンはともかく、コ−ヒ−となれば、正直インスタントも専門店のコ−ヒ−も余り違いは分からない人も結構いるのではないでしょうか。コ−ヒ−の個性を知覚する味覚がないと言えます。同様に、ただ鳴っているだけではなく、その音色が個性的である時に違いの分かるスペイン人ギタリストは『このギタ−は個性がある良いギタ−だ』との言い回しを用います。また、個性的な自分だけの音色のギタ−を作れる人が優れた製作家であり、それがその作風とも言えるでしょう。 (C) 歌うギタ− これは私の師匠故マヌエル・カ−ノ先生や息子のホセ・マヌエル・カ−ノが良いギタ−を形容する際良く使う表現です。それも何分か試奏した後ではなく、弾き始めてすぐこの文句を口にします。名人は名器を知る、しかも初見で知るとでも言いましょうか。単音を爪弾いて、或いは、コ−ドを押さえて掻き鳴らすだけで果たしてこのギタ−は歌うか否か、聴く耳を持っている人は利きます。それはあたかも日本では利き酒、スペインではワインやオリ−ブ油を利く職人が味とこくを舌で利き分けて『良し!!』と頷く様なものです。ギタ−も楽器一般の選択もことばを変えれば結局は利くこと、そして、利く耳を持っているか否かに換言出来ます。その時、酒やワインなら美味く、良いギタ−なら自ずと歌うギタ−であり、自ずと弾き手をも歌うことに誘います。 (D) 包容力 良いギタ−を包容力と描写するのは、もしかすると世界中で私が一番最初かも知れません。これはギタ−に限ったことではなく、上手い演奏は楽器でも声楽でも聴く人を包み込むふくよかさが感じられます。それは単に楽譜通り音が出ている以上の、奏者の豊かな表現力の表れです。女性が男性に求めるものの一つがこの包容力かも知れませんが、男女を問わず人間性に奥行きのある人なら多かれ少なかれ包容力が感じられるものです。それは良いギタ−も同じこと。包容力のある歌心の奏者は類は友を呼んで包容力のある音色のギタ−と出会うのかも知れません。
いわゆる箱鳴りではなくギタ−全体が鳴り、更に奏者の後ろから音が泉の様に湧き出ていると感じるギタ−こそ真に包容力のある良いギタ−だと言えるでしょう。 ************ インスタントラ−メンも手打ちラ−メンも丼一杯のラ−メンには違いありません。安物ワインも年代物ワインも注いでしまえば両者共グラス一杯のワインなのです。何が同じでしょうか? 量です。それではどちらが美味しいでしょうか? 後者です。同様にギタ−も音量ではなく音が美味しいかどうか、つまり、味とこくが判断の一番の決め手であるべきです。味とこくのある音色のギタ−なら、(A)(B)(C)(D)もまたその味とこくに応じて伴うギタ−であるはずです。しかし、味とこくと言われても掴みどころのない表現です。結局何軒も食べ歩かなければラ−メンも比較出来ない様に、ギタ−も何台も弾いて耳を肥やすしかないのです。
B バランス 弦によって、フレットによって音量音質のバラつきがなく一定であること。A音質(↑)に優れたギタ−はまたバランスも良く、バランスの良いギタ−はまた音質にも優れているものです。
C 弾き易さ ある程度上達すれば少々のサイズの問題は慣れの問題だとも言えますが、特に初心者の内は力みを伴うおかしな癖が付かない様ネックの幅、太さ、弦長、弦高など弾き手に無理のないサイズであることが必要です。ブリッジの骨を削って少々弦を低めに張ったり、張力の弱いロ−テンション弦を使用しても差し支えないと思います。
詳しくはこちらをご覧下さい。
総 括 その他、しっかりした作り、内部構造、仕上げの美しさ、塗装などいくらでも述べることが出来ますが、一応これらがレオ−ナ流良いギタ−の基本的な4項目です。実際のところ、総てにおいて満足の行くギタ−と言うのはどんな名工の作品でも中々ないものです。その意味ではギタ−の選択はどこで妥協するかとも言えるでしょう。ただ、人によってその妥協点が高いか低いかと言うことなのです。そして、味とこくを聞き分ける耳が養われて来るほど良いギタ−の妥協点は高くなります。以上、良いギタ−について作りよりも音の観点から述べたことに注目して下さい。 以前どこかの高校野球の監督さんが『野球は勝った方が強い』と言ったことがありましたが、同様にその調べを通して奏者も聴く人も豊かになるべきギタ−の最終目的から言えば『ギタ−は鳴った方が良いギタ−』なのです。ただし、鳴り方はA音質を一番の判断基準にして下さい。 読者の皆さん一人一人が是非とも良いスペインギタ−に出会うことを切に願います。 代表 |